東京高等裁判所 平成元年(行ケ)107号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件発明の特許請求の範囲)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の当否を検討する。
1 成立に争いない甲第三号証によれば、当初明細書に記載されている発明は、パチンコ遊技場には硬貨用自動玉貸機と紙幣用自動玉貸機が設置されるところ、硬貨の鑑別は簡単に行い得るので硬貨用自動玉貸機は多数設置できるが、紙幣の鑑別には高価かつ大型の鑑別機を要するので紙幣用自動玉貸機は一~二台しか設置できないことを従来技術の問題点ととらえ、鑑別機を紙幣用自動玉貸機とは別個に設けて、複数の紙幣用自動玉貸機が一台の鑑別機を共用する構成を採用することによつて、自動玉貸機の小型化を廉価に実現することを企図するものと認められる(第一頁第一七行ないし第三頁第六行、第八頁第九行ないし第一六行)。
そして、同号証によれば、当初明細書には、実施例として、紙幣用自動玉貸機から鑑別機を除いたものと硬貨用自動玉貸機を組み合わせたものが例示され(第三頁第一二行ないし第一五行。別紙図面一参照)、自動玉貸機3と鑑別機4は信号線5によつて接続されること(同頁第一五行及び第一六行)、91はトラブル表示部であること(同頁第一八行)、27は取り込んだ紙幣の検定部であること(第四頁第一〇行及び第一一行)、鑑別機4は複数の自動玉貸機3から伝送される検定信号を時分割方式等により一台で鑑別しその結果を返送するものであつて、管理室などに設置されること(第五頁第二行ないし第五行)、自動玉貸機3は硬貨を鑑別すること(同頁第一三行ないし第一五行)、紙幣は検定部27で検定されてデータが取り出され、検定部27からの検定信号は信号線5によつて鑑別機4に伝送されること(第六頁第一行ないし第六行)、及び、検定信号は鑑別機4によつて鑑別され、その結果は鑑別信号として信号線6、7で自動玉貸機3に返送されること(同頁第一〇行ないし第一四行)が記載されていると認められる。
そうすると、当初明細書に記載されている「検定部」が、紙幣に関するデータを収集する機能のみを有するものであつてその真贋を判別する機能は有せず、かつ、硬貨に関するデータの収集及びその真贋判別にはかかわりを持たないものであること、並びに、当初明細書に記載されている自動玉貸機全体は、紙幣に関するデータを収集する機能及び硬貨の真贋を判別する機能を有するものとして構成されていることは、疑問の余地がないところである。
2 一方、成立に争いない甲第四号証によれば、補正明細書には、「検定部」に関して左記のような記載があることが認められる(別紙図面二参照)。
<1> 「両取り込み通路の適宜の箇所に少なくとも紙幣と硬貨の正偽等を判別する検定部を設け」(第三頁第一二行及び第一三行)
<2> 「貨幣をチエツクするための検定部」(第四頁第一五行及び第一六行)
<3> 「自動玉貸機21は従来の硬貨用自動玉貸機と同様にその硬貨を検定して本物であれば一〇〇円分のパチンコ玉を取出口151に送出して遊技客に出す。又自動玉貸機21はその硬貨が偽物であるか、又は一〇〇円以外の硬貨であれば硬貨返却口171へその硬貨を送出して遊技客に返却する。又遊技客が一〇〇〇円札等紙幣を自動玉貸機21の紙幣挿入口51より投入すると、その紙幣は自動玉貸機21において取り込みローラ131により内部に取り込まれて検定部9で検定され、本物であればそのまま取り込み通路内に取り込まれ、そうでなければ遊技客に返却される。そして本物の場合は玉貸額選択釦121を点灯させる。」(第六頁第二行ないし第一五行)
右記載によれば、補正明細書に記載されている「検定部」には紙幣検定部と硬貨検定部があり、紙幣検定部として紙幣の真贋を判別する機能を有すると共に、硬貨検定部として硬貨の真贋判別にもかかわりを持つものであること、並びに、補正明細書に記載されている自動玉貸機全体は、紙幣及び硬貨いずれの真贋をも判別する機能を有するものとして構成されているとの認定は動かし難いものであつて、それ以外の認定を容れる余地はない。この点に関する審決の判断は錯雑しており理解し難く、肯認することはできない。
3 右<1>の記載について、被告は、「貨幣の真贋判別機能をデータ収集部と鑑別部に分け、少なくともデータ収集部は取り込み通路に設けるべき趣旨である」と主張する。しかしながら、補正明細書には、「鑑別部」の存在をうかがわせる記載が全く存しないのであるから、「真贋判別機能をデータ収集部と鑑別部に分け」との被告の主張を認めることはできず、被告が提出援用する乙号各証もこれを左右し得るものではない。
また、右<2>の記載について、被告は、「チエツクとは、データ収集の趣旨である」と主張するが、「チエツク」の語は、「照合して正確を期する」という意味で使用されるのが通常であつて、これを「データを収集する」との意味で使用されることがあるとは考えられない。
さらに、前記<3>の記載について、被告は、「データ収集部である検定部にとつても、貨幣の真贋を判別することが最終の目的であるとの趣旨である」と主張する。しかしながら、このような主張は、前記<3>の記載内容から遠く離れたものであつて、明細書における発明の詳細な説明は当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されねばならないとする特許法の法意に反するものであり、到底採用することはできない。
4 以上のとおりであるから、補正明細書によつて加えられた構成要件Cは、当初明細書に記載されていた事項の範囲を超えるものというべきである。したがつて、構成要件Cは当初明細書の要旨を変更するものではなく、本件発明の特許出願日は昭和五一年六月三〇日であるとした審決の認定及び判断は、その余の点について検討するまでもなく誤りであり、審決は違法なものとして取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとする。
〔編注1〕本件発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
1 願書に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)に記載されている特許請求の範囲
所定の商品交換媒介物の検定信号より商品交換媒介物を鑑別する鑑別機と、この鑑別機を共用しそれぞれ投入された所定の商品交換媒介物を検定して検定信号を前記鑑別機に伝送すると共にこの鑑別機から伝送されてきた鑑別結果に応じて商品交換媒介物と商品との少なくとも一方を送出する複数の自動交換機とを具備することを特徴とする自動交換装置(別紙図面一参照)
2 本件補正後の特許請求の範囲
複数台のパチンコ台を並べて配置した遊技場におけるパチンコ台間に配置される金銭の投入に応じて貸玉を放出する薄形玉貸機において、
縦状の紙幣と硬貨の挿入口を設け、該両挿入口に連通する取り込み通路を別々に設け、
該両取り込み通路の適宜の箇所に少なくとも紙幣と硬貨の検定部を設け、
前記両取り込み通路および検定部等でトラブルが発生したときに、外部に表示するトラブル表示部を別々に設けたことを特徴とする遊技場における薄形玉貸機(別紙図面二参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面一
<省略>
<省略>
<省略>
別紙図面二
<省略>